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世界基準を知ったことで日本の美の素晴らしさに気づく

MAKE / HAIR

市川 裕子/ヘア・メイクアーティスト
2005年メイク学科(現メイク・ネイル学科)卒業

きっかけはミロのヴィーナス

絵を描くのが大好きな少女だった。特に好きだったのはデッサン。小学生のころに通っていた絵画教室で、あるとき与えられた課題は「ミロのヴィーナス」。その端正な顔を描きながら、陰影によって表情がガラリと変わることに気づく。「人の顔って面白い。顔をキャンバスにして、色々なことを表現してみたい」。ふとしたきっかけが「メイクさんになりたい」という夢へとつながっていった。

メイクなどしたこともない子どものころに決めた進路だったが、ただの一度も揺らぐことはなく、「技術を身につけて早くプロになりたい」一心でモード学園の門をくぐる。学園生活は何もかもが楽しく、辛かった思い出はひとつもなかったという。膨大な課題にも嬉々として取り組み、グループ制作ではリーダーを任されて大活躍した。「本来は内気な性格なのに、ヘア・メイクへの情熱がそれを上回って余りある感じで。何かあると、私、それやります!って手を挙げて」と、懐かしそうに笑う。

印象に残っているのは、谷まさる学長の創造性開発の授業。メッセージ性が高く、若い心に刺さりまくる言葉のオンパレードで、一言一句聞き漏らさないよう気合を入れて授業に臨んだ。まだ何のノウハウもない未熟な時期に、夢をかなえるための方法論を学べたことはとても大きかったという。「たくさんの言葉に背中を押してもらったし、夢に向かって努力するためのモチベーションがキープできたのも、この授業のおかげ」

卒業後、美容業界大手のサムソンに入社し、お台場のメイクスタジオに配属となる。新入社員はアシスタントからスタートするのが常だが、市川氏はメイクのスキルを買われ、入社初日から独り立ち。その後、確かな技術が評判となり、タレントやモデルのメイクを担当する機会も増えていった。

ミス・ユニバース日本代表の専属ヘア・メイクに

ヘア・メイクアーティストとして順調にステップアップを重ねる中で、大きなチャンスが巡ってきた。ミス・ユニバース日本代表の専属メイクのオファーが舞い込んだのだ。2014年の辻恵子さん、2015年の宮本エリアナさんと、2年連続で専属ヘア・メイクを担当。世界に向けて日本の美を発信するというこれまでにないミッションを担い、グローバルな美を意識したクリエイションに取り組んだ。「欧米人とは異なる日本人女性の魅力や美しさを活かしながら、いかに世界基準に仕上げていくか。地味に見えがちな日本人の顔つきを、ステージ上でいかに華やかに見せるか」。市川氏は顔の骨格や筋肉のつき方、様々な表情を研究し、過去の事例なども徹底的に調べ上げて戦略を練った。

もちろん、彼女たちがメディアに登場する際には必ず同行してヘア・メイクを担当する。さらには、ベースの美を磨くために肌や髪のケア、ヘア・メイクのテクニックをブラッシュアップさせるレッスンも行わなければならない。なぜなら、大会当日は本人がヘア・メイクを行うのが決まりで、一切手を貸せないためだ。文字通り二人三脚の日々。「世界大会に向けて、とにかく1日1日が勝負だった」と振り返る。

仕事を通して視野が広がり、グローバルな目線で物事を考える習慣がつくと同時に、あらためて日本についても考えるようになったという市川氏。「世界に誇れる日本の文化や日本の美、世界に通用する日本の高い技術をもっと発信していけたら」という気持ちが自然に芽生えてきたという。4年後の東京オリンピックは絶好の機会。「ぜひ何らかの形で携わりたい」と希望に燃えている。

女性の人生を彩るライフスタイリストとして

現在は、メディアの仕事で忙しく飛び回りながら、「銀座B-by-C」にて、“ライフスタイリスト”としても活動。サロンのコンセプトは“美健同源”で、美容サロン、カフェ、パーソナルトレーニングジム、メディカルルームを備え、一人の女性を外側からも内側からも健やかに美しく輝かせることを目指している。そして、ヘアスタイリストは、「お客様の生活をトータルプロデュースする」という意から、“ライフスタイリスト”と呼ばれているのだ。

市川氏自身、数年前に体調を崩したことで生活習慣を見直した経験があり、「それがきっかけで、インナービューティの大切さを身をもって知りました。ヘアカットやメイクを通じた美の提供はもちろん、細胞レベルからキレイにしていくために、伝えたいことがたくさんある」と目を輝かせる。顧客のひとり1人とよりパーソナルな関係を築き、トータルな美を通して人生を彩るお手伝いをする。「責任は重いけれど、その喜びを知ってしまったから、もうやめられないですね」。

休みもとれないほど忙しい毎日だが、雑誌やテレビなど、プロが集う現場で刺激を受けるのは楽しく、また、幅広い学びを得られ、顧客の反応をダイレクトに感じられるサロンワークも大切にしたいという市川氏。「双方の仕事がリンクして互いに還元できるので、全方角に成長できる」と、当面は2つを両立させるスタイルで行くつもりだ。

そんな市川氏から後輩たちへ伝えたいのは、「たくさんチャレンジして、たくさん失敗した方がいい」ということ。「学校は失敗できる場所なのだから、怖がることはない。何事にも壁はあって当然で、何度もぶつかってもがくことでピンチをチャンスに変える術が身につき、現場に出たときに役立つはず」と、柔らかな笑顔でエールを送ってくれた。

市川 裕子

卒業後、株式会社サムソンに入社。現在は系列会社の株式会社B-by-Cに在籍し、ライフスタイリストとして多くの顧客を抱えるかたわら、ファッション雑誌やテレビでも活躍。ミス・ユニバース・ジャパン、ミスター・ジャパンにおいて、ヘア・メイクとして関わり、2014年、2015年のミス・ユニバース日本代表の専属ヘア・メイクを担当する。

※卒業生会報誌「MOGA PRESS」71号(2016年11月発刊)掲載記事