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尽きることのない探求心で革新的なアウトドア製品を生み出し続ける

FASHION

三枝 弘士/商品企画
1992年ファッションデザイン学科卒業

「欲しい」「使いたい」と思えるものをつくりたい

多くのファッションは「どう見せるか」「何を見せるか」の追求から生まれるのではないだろうか。しかし、三枝弘士氏が向き合い続けるのはファッションにおける「機能」。そして、そこから生まれる「機能美」なのである。

モード学園でファッションデザインを学んだのち、大手アウトドアブランド『モンベル』へ入社。さらに「商品企画に携わりたい」という希望が受け入れられ、以来、三枝氏は企画畑一筋だ。「学生の頃からアウトドアが趣味で、色々なアイテムを使ってきたけれど、なかでも『モンベル』の製品はすごく面白かった」という三枝氏。使いながら、どうしてこんなに軽いのか、どうして水が漏れないのかと、機能に対する疑問と興味が次々と沸いて、さらに、結果としてかっこよく仕上がっているところにも魅かれたという。そうして、「このブランドで、自分が欲しい、使いたいと思うものをつくってみたい」と、自らつくり手に転身した。

現在は企画部の課長として、服などのアパレルアイテムから、靴やザックに至るまで、幅広く同社の製品企画を管轄。
同社では、商品企画からあらゆる生地の選定、製造工場との交渉、輸出入の手配や管理まで、通常は商社などに任せるようなことも、すべて自分たちで担うというのが方針だ。さらに、取り扱うジャンルは着々と増え、第一次産業向けのウェアや、最近では食品など、新しい分野にチャレンジするたびに知識と経験は積み重なり、それがブランドの力となっている。「数々の経験のおかげで、どの工場で何がどれくらいでできるのか、頭の中ですばやく見積れるようになった」という三枝氏。それによって、今では思い描くものを、速く、確実に実現できるようになった。「商品開発の仕事において、モード学園で学んだパターンや縫製などの知識が役立っている」と三枝氏は振り返る。

機能の追求の先に生まれる「機能美」こそが魅力

本格登山での使用も想定される『モンベル』の製品は、荒天や事故から体を守る大切な役割を担う。“ファッション性”と“機能性”、企画にあたり重視する比重を尋ねると、「圧倒的に機能性。ファッション性から生まれるアイテムはゼロかもしれない」との答えが。「たとえば、軽くて暖かいダウンジャケットを企画する。それなら、少ない綿量でも暖かい高品質の『1000フィルパワー・EXダウン』を採用して、縫い目を最小限に抑え、ダウンの偏りを防いで…と、まず機能性を第一に追求していく。すると、結果的に独自のキルティングパターンが特長的な、『プラズマ®1000ダウンジャケット』という新しいダウンジャケットができあがる。それが『モンベル』がコンセプトとする『Function is Beauty(機能美)』であり、こうしてアイテムひとつ1つに生まれるストーリーもモンベル製品の大きな魅力」と三枝氏は語る。

そして、もう1つのコンセプト「Light & Fast(装備を軽量にして、速く動く)」に基づき、同社のアイテムは常に進化を続けている。素人目には、もはやどの製品もこの上ない最良商品に思えるが、三枝氏が休日に趣味のロッククライミングをしながら一愛用者に戻ると、「もっとこうならいいのに」という改善点が次々に沸いてくるという。「やっぱり自分が使いたいと思えるものをつくりたいから、それを追求すると、ああしたい、こうしたいという欲求は尽きない。それを他社に実現されてしまうのは嫌だし、常に自分たちの手で、今までにないインパクトがあるものを世に送り出していきたい。その想いが入社から今までずっと続いている」。多くの顧客に喜ばれる製品を生み出すには、自らがユーザーの立場で、『モンベル』に期待し続けることが大切だ。そんな想いが、留まることなく三枝氏の好奇心を刺激し続けているのだろう。

大きな組織だからこそインパクトが大きいものをつくれる

多くの人に愛される製品は、『モンベル』という組織だからこそつくれるものなのだと三枝氏は言う。
同社は、社員が皆アウトドア好きで、毎週のようにフィールドに出ている。そんな全スタッフから集まるアイディアをもとに、約2カ月に1回、商品の企画会議が行われる。そこで安全性から採算まで、あらゆる方向から何度も検討して製品をつくり上げていくのだ。だから、多彩なアイディアを盛り込むことができる。そうしてできた製品の1つが、右上の写真で三枝氏が手にしている「EXライト ウィンドジャケット」。世界最軽量を実現し、「OutDoor INDUSTRY AWARD 2012 」の最高賞を受賞した。「髪の毛より細い7デニールという糸を採用しながら、高い強度を保てる商品として、世界に衝撃を与えたことが肌で実感できた受賞だった。これからも世界を驚かせる製品を世の中に送り出していきたい」と三枝氏は意気込む。

今、同社は、全国の自治体と手を組み、地域活性のために第一次産業である農業や林業用の専門ウェアの制作に取り組んでいる。アウトドア製品で培ったノウハウを活かして職人たちの安全を守り、彼らの新しいスタイルをつくろうとしているのだ。新たな挑戦が続き、辛くないかと尋ねると、「辛いことはない」とサラリと返された。「その時々で、思うようにいかずに悩み、試行錯誤することはあっても、それがまた楽しい。これを楽しめることが、この仕事に対する僕の一番の適性なのだと思う」。

最後に後輩へのアドバイスを求めると「何に対しても前のめりであること」だという。立場は変わっても、新しいもの、面白いもの、そして使いやすいものを求め続ける三枝氏の姿勢は同じ。今後、どんなものを世の中に発信してくれるのか、期待せずにはいられない。

プロフィール/三枝 弘士

卒業後、1992年に株式会社モンベルに入社。以来、同社の商品企画に携わり、なかでも「ストームクルーザー」をはじめとしたレインウェアに力を注いだ。現在は同社の多岐にわたる製品全般の開発をマネジメントする企画部課長を務め、アウトドア業界における世界的権威のある賞を受賞する優れた製品を、多数世に送り出している。