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舞台をつくり上げる裏方として日本屈指のエンターテインメントを支える

FASHION

西山 るみ子/四季株式会社 衣裳プロデューサー
1996年ファッションデザイン学科卒業

総勢70名を超える衣裳・床山部門を統括

劇団四季。いわずと知れた日本を代表する劇団である。国内に8つの専用劇場を持ち、年間の公演数は3,000回以上。『キャッツ』『ライオンキング』などヒット作をあげれば際限がなく、世代を超えて多くの人々を魅了し続けている。

西山るみ子氏は、そんな『劇団四季』のステージを支える四季株式会社に籍を置き、衣裳、床山(ヘアメイク)部門を統括する重要なポジションで活躍中だ。スタッフは70余名。作品ごとにチームを編成し、各々チーフの指示のもと、衣裳、カツラの製作、メンテナンスなどの業務を進めていくが、それら全チームを束ねる“長”であり、テクニカル面を含めたマネジメントを担っている。「現在はもちろん、数年先の公演スケジュールを念頭に、どのチームが、いつ、何をすべきか、綿密なプランを作成し、滞りなく進むよう全方位に気を配っています。たとえば新作の衣裳やカツラは、1年ぐらいの期間をかけて製作することもざら。長いスパンの仕事になるため、この時期にここまで進めるといった進捗管理がとても重要です」。サラリと語るが、半端ではない公演数、1つの作品に使用する衣裳・カツラの数を考えれば、それがどれほど大変なことかは想像に難くない。

実は、同部門のスタッフは全員が女性である。西山氏は頼れる“長姉”として、時には技術的なアドバイスを行い、悩み相談に応え、トラブルが起きれば調整役になるなどして、“妹たち”を力強くサポートし、個々の成長を促す役目も果たしている。「裏方の裏方のような存在」と控えめにいうが、いかに西山氏が皆から信頼され、慕われているかは、スタッフたちとの息の合ったやりとりを見れば一目瞭然である。

働きながらモード学園へ通い、念願の衣裳担当に

「人よりずいぶん遅いスタートだった」と西山氏は打ち明ける。一般企業に勤務していた20代の頃に演劇に魅せられ、それを支える裏方の仕事に興味を抱く。なかでも、心惹かれたのは衣裳だ。「衣裳の仕事をしたいとの夢が芽生え、『劇団四季』の採用情報を調べてみると洋裁専門学校3年程度以上とある。まずは学校に通わなくてはと思い立って…」働きながら学べるモード学園の夜間コースに入学した。仕事と勉強の両立は想像以上に大変だったが、「服づくりの技術を身につけたい一心で乗り切れた」と振り返る。そして卒業後、念願の四季への入社がかない、衣裳担当として夢の第一歩を踏み出した。

数年間衣裳担当として活躍したのち、転機が訪れる。折しも、『劇団四季』が飛躍的な成長を遂げていった時期。誰かがマネジメント役を担わなければ物事が進まないという状況から現職を任されることとなった。
かくして、仕事の内容は大きく変わった。チーム編成やスケジュール作成・管理、予算計画、人材育成といった経営寄りの業務が中心。現場で手を動かす仕事からは離れてしまったが「こちらはこちらで面白い」とほほえむ。

今、興味があるのは、意外にも演劇以外のこと。絵画、音楽、経営学、環境・社会問題などで、オフの日は、美術館やライブハウスに出かけたり、大学が開催する社会人向けの講座に参加したりと、アクティブに過ごしているそう。「違う世界に触れ異業種の人の話を聞くことで、刺激を受け新しい発想が生まれることも多い」。そういった意識を持つようになったのはマネジメントのポジションに就いてからで、「スタッフたちに良い道筋をつくってあげられるよう、幅広く情報を得て自分の引き出しを増やしたいとの想いが根底にある」という。

オリジナル作品を増やし、若手の活躍の場を広げたい

多忙を極めるなかで、いちばん達成感を感じるのは「何といっても初日を迎えたとき」。特に新作の初演ともなれば感慨もひとしおだとか。しかしながら、公演はその後何日、何カ月と続いていくため、喜ぶのはほんの一瞬。

「舞台は生きもので、日々何が起きるかわからない。また、どれほど公演回数を重ねようと、お客様にとっては一期一会の舞台。常に緊張感を持ち業務に向き合っています」とキッパリ。そして、「思わぬアクシデントが発生することもあるが、私たち技術部にはそんなときほど力を発揮する頼もしい人材がそろっています」と誇らしげに語る。

四季株式会社には、モード学園の卒業生も多数在籍していて、先輩後輩の良いつながりができている。ちなみに、演劇の世界への就職というと何となく特殊で狭き門のように思えるが、その点を尋ねると「いえいえ、ちっとも狭くない。若い力、ウエルカムです」と笑顔。そして「経験は不問。ただし、基本的な技術は必要なので、学校でしっかり勉強してほしい。あとは情熱とコミュニケーション能力。たくさんの人が関わって1つの作品をつくり上げていくので」と後輩たちへのアドバイスを送ってくれた。

今後力を入れていきたいのは「オリジナルの作品を増やすこと」。制約のあるライセンス作品とは異なり、オリジナルは自由な発案ができ、衣裳もヘアメイクも表現の幅がぐんと広がる。「若いスタッフたちがクリエイションを発揮できる場を広げていけるように。やりたいことであり、やるべきことでもあると思っています」。

モード学園の卒業生も多数在籍

プロフィール/西山るみ子

電機メーカーの企画室に勤務しながらモード学園で学び、卒業後に四季株式会社に入社。衣裳担当として『美女と野獣』を始め、数々の作品に携わる。現在は技術部・技術統括室にて、衣裳・床山を統括するマネージャーとして活躍中。管理業務に加え、衣裳担当としてのキャリアを生かし、テクニカル面のサポートも担当する。