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特集「OH MY BRAND!」
カッコいいだけじゃなく、訴えかけられるものを

FASHION

リメイクブランドなのに、『READYMADE』


2003年のデビュー以来、世界のファッション界で注目を集め、絶大な人気を博すリメイクブランド、『READYMADE』。デザイナー細川雄太氏の自由な感性によって生み出させる唯一無二の作品(商品よりも作品というほうが相応しいだろう)を、今か今かと待ちわびる熱狂的なファンが後を絶たない。

そもそも「ready-made」とは「既製品」の意味である。ひねったネーミングの根底には、既成の秩序や概念、常識に対する否定・攻撃・破壊といった思想があり、既製品へのアンチテーゼが込められている。「カッコいいだけじゃなく、思想があって、訴えかけることができる、意味があるものづくりがしたかった」。

といっても素顔の細川氏には、とっつきにくい思想家という雰囲気はない。どこから見ても気さくで感じのよい若者である。「僕、頭が良くないんですよ。antiwar、peace…難しいことを簡単に、誰にでも伝わるように、そういうテーマでいこうかな、と」。語る姿は実に楽しげ。

実は、細川氏がブランドを立ち上げたのは、これが最初ではない。モード学園を卒業してまもなく、同級生ら4人でメンズブランド『S'exprimer』をスタートしているのだ。「自分を含めて誰一人、何一つ、ノウハウらしいものもなく、お金もなく、無謀なチャレンジだった。が、若さゆえ恐いもの知らずでかえってそれが良かったのだと思う。商談に行って相手にされなくても、笑ってまた明日みたいな」と当時を懐かしむ。そして、苦労はあったものの若い力を結集させて様々なピンチを乗り超え、ブランドが成長していく中で個人としてやりたいことが湧き上がり、『READYMADE』を誕生させるに至った。

ミリタリー素材を解体して再構築バッグやアパレルに

ミリタリーのハードなビンテージ素材から斬新なアイテムを創り出すのが、『READYMADE』の真骨頂。戦争の象徴である“軍もの”を破壊=解体して再構築するのだが、そのパーツは100以上に及ぶ。それらをどのように組み合せるかが腕の見せ所だ。「もともとスタイリスト志望で、デザイナーとしての勉強も足りていないから」感性で勝負。パタンナーには、細かい数字ではなく、絵を描いてイメージで伝えるのが細川流だ。アイテムは、アイコン的存在であるバッグをメインに、ジャケットやコート、シャツなどをそろえ、たとえ同じデザインであっても、同じものは存在しない。力強さと繊細さが絶妙なバランスで混在するカッコよさとともに、オンリーワンであるのも大きな魅力。多くの人々の心をガッチリ捉えて離さない理由だろう。


ただし、それゆえに時間がかかる。ニーズに制作が追いつかず、数ヵ月~半年待ちというケースも珍しくない。が、「それでも欲しい」というファンは引きも切らない。当然、日夜作業に追われることになるが…ハードな毎日の中でモチベーションの源泉となるのは顧客たちの声だ。「今の時代はメールやSNSがあるおかげでユーザとの距離が近く、ダイレクトな反応を知ることができる。『いつになっても構わないから待ってます』と直にメールが届いたり、コーディネイトの写真をSNSにアップしてくれたり、そういうことが何よりうれしい」。そして、普通の会社では絶対にできないことをやれているという快感、達成感を感じながら、できる限りこのスタイルを貫いていこうとの思いを強くする。

アートとファッションの間を追求していく

モード学園では、決して優等生ではなかった。「遅刻の指導など、今となれば、学生から社会人へと成長できるよう、育てようとしてくれていたのだと感謝しています」と振り返る。そして、それでも日々楽しく、学び、遊び、友人にも恵まれた。現在、アメリカにおける『READYMADE』のエージェント業務は、仲良しだった同級生が請け負ってくれているという。

そんな細川氏が自身の経験を踏まえ、「アドバイスなんておこがましいけれども」と前置きしつつメッセージを贈ってくれた。「好きなことならあきらめないで続けてほしい。3~4年で挫折しそうになっても、そこで頑張って10年続けたら大きな成功が待っているかもしれない。つまり『どこまで耐えられるか』が大事なんです。僕も耐えた時期があるから今があります」。

自身の野望といえば、まずは拠点をロサンゼルスに移すこと。ラスベガス、ニューヨークなどで定期的に展示会を開催しているため、現在も日米を頻繁に行き来していているが、「気候もいいし、友だちも多いし、向こうに住みたい」と笑う。そして、ファッションアイテムだけではなく、色々な素材を使ったものづくりへ、創作の幅を広げていく考えだ。大切にしたいのは人とのつながり。これまでも世界の一流クリエイターたちと多彩なコラボレーションを展開しているが、そういった出会いを楽しみながら“アートとファッションの間のようなこと”を追求していきたいと夢を膨らませている。

細川 雄太/2003年卒
2003年スタイリスト学科卒業。2004年にメンズブランド『S'exprimer』を設立。性別を超越したセクシーさ、飾らないエレガンスをテーマに、時代の先を行く洗練されたスタイルを提案し、脚光を浴びる。2013年、リメイクブランド『READYMADE』を設立。ファッション業界に新風を吹き込むとともに、デザイナー、イラストレーター、セレクトショップとのコラボレーション、海外での展示会を積極的に展開するなど、多彩に活躍中。

『READYMADE』
2013年よりスタートした、細川雄太氏によるリメイクブランド。地球上で戦争や紛争の絶えない混沌とした状況下、「War is over! If you want it.」のメッセージを込め、その象徴ともいえるミリタリーアイテムを解体し、再構築。権威や伝統、ステータスといったものへの皮肉も込めアイデンティティとしている。