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特集「モードがエンタメる!」
エンターテインメントは夢や希望を見出せるものでなくては

FASHION

三浦大地

普通の感性が武器
“好き”を一番の基準に

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三浦大地

2005年卒業
ファッションデザイナー
クリエイティブディレクター
プロデューサー

「非常に普通なのだ」三浦大地氏が自分自身を評した第一声である。浜崎あゆみを始め一流アーティストたちの衣装デザインを手がけて脚光を浴びるとともに、最近ではファッション以外のジャンルでも活躍が目覚ましい気鋭のクリエイターであることは紛れもない事実。オファーは後を絶たない。にもかかわらず「突出した才能があると思ったことは一度もなく、自分の感性は標準中の標準だと思っている」と言い切る。そして「実はそれが最強の武器」なのだと。標準ゆえに、自分が好きと思えるものは多くの人が好きと思える。そこは自信を持てる部分だから、自分を基準にできる。「自分が好きか、それを部屋に置きたいか…余計な情報に惑わされず、感覚を信じるのみ」。とはいっても、我を通すタイプではない。意見がぶつかったら大抵は譲る。相手のいいと思うものと自分のいいと思うものを融合させて、ベストなものをつくっていくのが三浦氏のやり方だ。「そういう柔軟なところも含めて、ヘンにとんがっていないから仕事がやりやすいのかも」と爽やかだ。

クリエイティブなことに興味はあったものの、特別ファッションに傾倒していたわけではなく、モード学園に進んだのは「何となく」だった。ところが入学後、服づくりは想像以上に面白く、夢中になる。1年生の時に「ファーストデザインコンテスト」「ジャケットコンテスト」で賞を取るなど、めきめき頭角を現すともに自分を表現する楽しさを知ったことが、今日の礎となった。

卒業後1年でブランド設立
アーティストの衣装デザイナーに

「自分の作品をつくりたい」との想いから自分のブランドを立ち上げたのは、モードを卒業してからわずか1年ほどのこと。早い段階での独立ではあったが「最初に自分の世界観をしっかり伝える、いわば名刺代わりとなる作品を発信したのは大きかった」と当時を振り返る。その独自の世界観が話題を呼び、スタイリストの目に留まったことから、浜崎あゆみのステージ衣装デザインのオファーが舞い込んだ。

当然だが、ステージ衣装のデザインはリアルクロージングのそれとは全く異なる。何といってもアーティストありきであり、その人をいかに魅せるかが勝負どころだ。楽曲やシーンに合ったイメージを追求し、本人の意向を取り入れながらディテールにもとことんこだわっていく。そして「1日でつくることもあれば、当日会場に着いて、その場でパターンを引いてつくることもある」というほど時間との戦いはシビア。ツアーに帯同し、ストックした材料とミシンを常に持ち歩いて、何かあれば即対応できるように準備万端で待機するのが当たり前なのだ。もちろん大変だが「普通の日常では起こりえないことを体験ができるワクワク感がたまらない」のだとか。そして「何よりうれしいのは、アーティストがステージに上がった瞬間の観客の喝采。あの感動は何度味わってもいい」。さらには、コスプレをするファンがいたり、SNSで話題になったり、評価云々よりも大勢に見てもらえるということが創作のモチベーションになるという。

ファッションの枠を超えマルチに活躍

三浦氏が思うエンターテインメントとは、夢、希望を見出せるもの。そこは死守したい部分であるという。だからこそ、人に夢を与える代表的な存在であるアーティストたちの活動に携われるのは光栄であるし、ファンタジック&ミステリアスという自分の持ち味を発揮できるステージとして大切にしたいと考えている。最近は、前述の浜崎あゆみのほか、数多くの女性アーティストの衣装デザインを手がけており、様々なチャレンジを続けている。

その一方で、近年、活躍の場はファッションの分野だけにとどまらない。自分のブランド用に描いたデザイン画がきっかけでイラストレーションを頼まれるようになったり、作品を見たクライアントからアートディレクションを任されたり、そのほかテレビCMやPRを企画から一括で請け合うなど、プロデュース業も増えてきている。さらには、インテリアや空間デザインにも興味津々で、現在飲食店のプロデュースも進行中。「日本にいながら異国が味わえる」をコンセプトに、月に一度は海外に行くというほど“旅好き”のセンスがちりばめられたカフェが誕生する予定だ。

「色々なツールを使ってはいるが、夢や希望を与えるというベースは同じ」という三浦氏。「今の世の中は全体的にリアル路線で、夢が少ないように思える。そんな中で、自分のクリエイションを通じて、夢を見られるとか、夢に挑めるとか、そんな空気を創出できたら」。イマジネイションは果てしなく広がっていく。

※卒業生会報誌「MOGA PRESS」69号(2014年11月発刊)掲載記事