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どんどんはみ出せ!
型に収まらない方が絶対に伸びる

FASHION

FACTOTUM
有働幸司(ファッションデザイナー)

有働幸司氏が手がけるFACTOTUMは、日本のメンズシーンをリードするファッションブランドである。ベーシックでありながらも奥行きのある個性を薫らせるデザイン。またスマートな知性をエッセンスにモードとリアルクローズを融合させた服づくりは多くの人々に熱烈に支持されている。

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有働幸司

ファッションデザイナー
http://www.factotum.jp
1993年ファッションビジネス学科卒業。BEAMSを経て、1998年ラウンジリザードの設立に参画。2004年に独立し、FACT0TUMを設立。2007年、東京コレクションデビュー、2009年にはニューヨークで展示会を開催。ミリタリーやワークをベースにしたスタイリッシュなリアルクローズを展開し、現在のメンズシーンになくてはならない存在となる。2010年秋冬より、レディースラインFACTOTUM FEMMEをスタート。ブランド設立から10周年を迎え、新たな表現、発信に注目が集まっている。

メンズラインの充実とともにレディースラインの展開もスタート

2010年秋冬からは、待望のレディースラインFACTOTUM FEMMEをスタートさせた。メンズに比べればアイテムはまだ少なめだが、評判は上々。次なるステージとして「たとえばワンピースなど、女性らしいアイテムを充実させること」を目標に掲げ、女性スタッフにも企画に参加してもらい、制作を進めつつあるようだ。

さて、有働氏といえば「旅」である。毎回コレクションのテーマになる国や地域を訪れ、そこで出会った人や風景、空気からインスパイアされた服づくりを展開するというのは、ブランド設立当時から変わらないスタイル。旅に出て非日常の中に身を置き、イマジネーションを広げることは、有働氏の服づくりに不可欠な要素なのだ。最近の渡航先はアメリカ西海岸。サンフランシスコ、ポートランド、ロサンゼルスを中心に、時間をかけてあちこち巡った。「西海岸特有のカラッした気候、ガツガツしていないゆるい雰囲気、生活に密着するカジュアルを表現したかった」と語る。その言葉通り、2013年秋冬のコレクションは、アメリカンカジュアルのテイストが色濃く出た展開となった。

ブランド設立から10年。原点に戻る想いを込めて西海岸へ

実は今年は、ブランド設立から10周年の節目の年。アメリカンカジュアルは、FACTOTUMの原点であり、ゆえに、西海岸への旅は、原点回帰という想いも込められていた。「10年前、FACTOTUMはジーンズ、Tシャツ、革ジャン、ネルシャツといった、ごく少ないアイテムだけでスタートした。そういった基本のアイテムに、改めて力を入れていきたい想いがあった」という。

さらにロサンゼルスは、有働氏が敬愛する作家、チャールズ・ブコウスキーゆかりの土地でもある。ちなみに、FACTOTUMというブランド名はブコウスキーの長編小説のタイトルからとったものであり、ラテン語で「勝手に生きろ」という意味なのだとか。アメリカを代表するアングラ作家であるブコウスキーは、「アメリカ文学界の異端児」「放浪と酒びたりの生涯を送った作家」など、ありがたくない言葉で語られることが多い。だがその一方で、郵便局に勤めながら細々と執筆活動を続けていたという生真面目さもあり、不器用でどこにも馴染めないはみ出し者だからこその、弱者の気持ちを代弁した作品も多くみられる。「ロスにある彼の墓を訪れたら、墓石に「『DON'T TRY』(直訳すると「やめておけ」)なんていう、これまたひねくれた言葉が刻まれていて、彼らしいなぁと感心した」と続けた。

実技が苦手で“はみ出す”も刺激的な仲間たちに巡り合えた

では、有働氏自身はどうなのか?というと、モード学園時代を振り返ってみると“はみ出し者”という言葉がぴったりだという。「といっても、ユニークな言動や感性で目立っていたとか、そっちの方ではなくて…」と苦笑する。「実技の方がダメでね。パターンを引いたり、デザイン画を描いたりというのが根本的に苦手で、落ちこぼれ気味だった」。とにかく不器用で効率が悪い。必然的に課題の制作が追いつかず、放課後に学園に残って作業することが多かった。ところが、そこには同じように不器用な仲間たちが集まって、居残り組ができ上がり、それが学園生活をひときわ充実させるきっかけになった。「みんな好きなもの、夢中になるものが違っていて、格好なんかもバラバラ。それが刺激的で、心地よかった」互いの個性を認め合うとともに、触発され、世界が何倍にも広がっていった。

「あの頃の自分は、あまり色々考えず、理屈抜きで目の前の好きなことに夢中になっていたと思う。今は情報が多すぎて、そのぶん頭でっかちになるのかも」。確かに、今はネットで検索すればたいていのことはすぐに調べられる。便利なようでいて、それに縛られてしまうことも少なくはない。「今の世の中は、はみ出しにくくなっているかもしれない。でも、自分なりのスタンスでいいから、どんどんはみ出してほしい。型に収まらない方が絶対に伸びる」。自身の経験を踏まえつつメッセージを語る有働氏のまなざしはとても温かい。

※卒業生会報誌「MOGA PRESS」68号(2013年11月発刊)掲載記事