News |

特集「モードがエンタメる!」
ステージは、消費者との接点となる売場 多くの人の記憶に残るパッケージデザインを追求していく

GRAPHIC

主役は商品
答えはいつも売場にある


お菓子を始め、様々なパッケージデザインを手がけ、ヒット商品の一翼を担い続ける木下トモキ氏。おそらく誰もが、スーパーで、コンビニで、百貨店で、幾度となく木下氏のデザインを目にしているはずである。

「パッケージは商品の顔。売上げにダイレクトに響くので、自分の仕事がどのくらい貢献できているのかを実感しやすいのがいい」。常に意識しているのは消費者の目線だ。「クライアントのニーズに応えることはもちろんだが、その先にある消費者目線も大事。より多くの人に受け入れられるものを目指さなければ」。そして「デザインにおいては、自分を出さないことを心がけている」と続けた。“自分のやりたいことを表現した”という類のデザインは好きではない。あくまで主役は商品。おいしいものはおいしそうに、かわいいものはかわいく、一瞬で商品を表現できるデザインを追求している。

昨今、ジャンルを問わず商品のライフサイクルは短縮傾向にあり、新発売やリニューアルなど動きはめまぐるしい。市場間の競争も激しくなる一方だ。そんな中、いわば「手にとってもらえてナンボ」の世界で走り続ける木下氏。独自のアプローチ法はあるのか?という質問には、「答えはいつも売場にある」というシンプルかつ明快なアンサーが返ってきた。「僕のステージは売場。消費者との接点となるその場に行けば、おのずと見えてくるものがある」。ゆえに、色々な売場を見て歩くことには時間を惜しまない。

「これだ!」とデザインに目覚め
「これだ!」とモード学園へ

幼い頃から絵を描くのが好きだったという木下氏。画家の先生のもとに通って絵を習い、好きなことに没頭できる環境を求めて美術系の高校へ進学する。ところが、いざ入学してみると、曰く「思春期にありがちな反抗期みたいなもの」で、「絵を描くなんてダサい」とふと冷めてしまったというからわからないものだ。かくして、授業をサボり、遊びに興じる日々を過ごすことになってしまう。

そんな木下氏が覚醒したのは、高校生活も終わりに近づいたある日、ふらりと入った書店で出会った本がきっかけだった。「真っ白な本で、異彩を放っていて、何だろう…」と手に取ってみると、それはグラフィックデザインの雑誌。そこで初めてグラフィックデザイナーという職業を知り、直感的に「これだ!」と思ったのだそうだ。その日を境にグラフィックデザインの世界へのめり込み、バスキアなどグラフィティ系アーティストの影響も受けつつ、絵を描くことへの意識は「ダサい」から「カッコいい」へと反転していった。

そして、ようやく進むべき道が見え始めたその頃、モード学園がグラフィック学科を開講するとの情報を聞きつけ、再び「これだ!」とひらめいた木下氏は、迷わずモードの門をくぐることを決める。「高校3年間、はっきり言って僕は遊んでいた。クラスメートは皆目標に向かって頑張っていて、自分は遅れをとってしまったという気持ちが強く、モードに行って自分を変えたいと思った」と振り返る。

グラフィックデザイナーからパッケージデザイナーへ

情熱をもってモードに入学した木下氏の学園生活は、期待通りに充実したものとなった。絵に関しては誰にも負けないという自信があった。だから得意分野で勝負できることがうれしく、さらにモチベーションが上がるという好循環が起きた。やる気がみなぎり、課題制作にも懸命に取り組んだ。「我ながら、一番頑張った時期だったと思う」。

パッケージデザインに出会ったのもモードの授業だ。「パッケージがデザインされたものであるという認識が当時はなく、すごく新鮮だった」そうで、平面でつくったものが立体になることに底知れぬ魅力を感じたという。

卒業後はグラフィックデザイナーとして広告会社に就職。様々な案件を受ける中で、パッケージデザインの仕事が来た時は率先して手を上げた。キャリアを積んだ後「もっとこのジャンルを究めたい」とパッケージデザイン専門の事務所へ転職。それから約十年が経つが「好きなことを仕事にできて本当に幸せ」と、デザインすることが楽しい日々なのだとか。

木下氏の次なる野望は、お酒のパッケージデザインだ。「お酒好きなので、自分がデザインしたらどうなるかと…」。そして生涯の目標は、人々の記憶に残るパッケージをデザインすること。たとえばコカコーラやカップヌードルといったロングセラー商品のように、自分がデザインしたものが世代を超えて親しまれ、末長く残っていくことが究極の夢なのだそうだ。

木下トモキ/2001年卒
2001年グラフィック学科卒業。グラフィックデザイナーとして広告会社に勤務した後、パッケージを専門とするデザイン会社に転職。以後、パッケージデザイナーとして活躍。少年時代に絵を基礎から学んだことにより、多彩なタッチのイラストが描けることが強み。江崎グリコ、ゴンチャロフ製菓、UHA味覚糖などのメーカーを担当し、様々な商品のパッケージデザインを手がけている。

※卒業生会報誌「MOGA PRESS」69号(2014年11月発刊)掲載記事