「繁盛する店舗デザイン」とプロデューサー的視点を発揮し、全国展開の飲食店を続々と成功へ導く
皿井秀明
株式会社サライデザインルーム
店舗デザイナー/書家
特集:上昇気流に、なる!
~協調性(cooperativeness)で上昇~
飲食業界で働いたのちに店舗デザイナーの道へ
飲食店を中心に、多数の店舗の設計やデザインを手がける売れっ子店舗デザイナーとして、日々全国各地を飛び回る皿井秀明氏。自らの事務所を構えてから9年を数えるが、この道に進む前は、外食事業を展開する会社に勤務し、調理や接客などの仕事に従事していた経歴を持つ。
「店舗設計やデザインに興味があったが、それを職業にできるとは考えておらず、大学で経済、経営を学び、飲食業界に就職した。けれども、飲食の業務に関わるうちに、店を運営する側でなく、つくる側になりたい気持ちが強くなって…」。2年ほど勤めたのちに意を決し退職。「設計やデザインを基礎から学ぼう」と、モード学園の門をくぐった。
人より少し遅れたスタートだったかもしれない。けれども、「同級生には自分のような“社会人組”や“大卒組”も結構いて、年齢を意識することはなかった。何より、好きなことに没頭できるのが嬉しかったし、見るもの聞くものすべてを吸収してやろうと気合が入っていたので、周りなんて目に入らなかったというのもある」。そして「いちばん思い出に残っているのは、卒業制作展。グループ大賞を受賞して、チーム全員でグアム旅行に行った。あれは楽しかったな」と笑顔で語った。
独立後は「書」を武器に仕事を広げる
卒業後、株式会社星野デザインオフィスで3年間修業を積み、独立。
理由はシンプル、「とにかく自分でやりたかったから」。しかし、「事務所を開いてはみたものの、当初はまったく依頼がなく、毎日時間を持て余していた」のだとか。
店舗デザインの依頼は紹介から入るケースが多いため、新参者は厳しいと覚悟していたものの、「不安を感じることも多々あった」そうだ。そんな中で拠り所となったのは、「書」だった。
実は、書家としての顔を持つ皿井氏。「看板の文字を書いてほしい」「筆文字のメニューをつくりたい」など、書に関する依頼は途切れることがなかったといい、「それらに対してひとつ1つきっちり応えることで、徐々に人脈が広がり、店舗デザインの仕事につながっていった」。
設計、デザインだけでなくコンサルやディレクター的な役割も
ひと口に店舗デザイナーといっても、職域は「人それぞれであり、クライアント次第でもある」という。
「立地から提案していくこともあれば、場所が決まっていて、業態や方向性などを相談しながら進めていくこともある。また、明確に方針が固まっていて、それに合わせた店舗づくりを行う場合もあり、全くもってケースバイケース。当たり前だが、都会と田舎ではニーズも、客層も、賃料も違う。様々な背景や条件を踏まえ、クライアントの意向とのバランスを取りながら、繁盛する店に仕上げるのが自分の仕事と認識している」。
ゆえに、運営視点から提案をしたり、時にはメニューやオペレーションに関する相談にのるなど、デザイン以外でも、求められることに対して可能な限り応えていく。「デザイナーであると同時に、コンサルタントになったり、ディレクターになったり・・・それができるのは、大学で学んだ経営のノウハウや、飲食業界での就労経験があるからで、そういう意味では回り道も悪くなかったと思う」。
そんな皿井氏が店舗をデザインするうえで最もこだわっているのは、いかに居心地の良い空間にするか」ということ。「見栄えは二の次、三の次というと語弊があるが、たとえば椅子ひとつとっても、パッと見のカッコよさより、座り心地がいいとか、座ったときにテンションが上がるとか、くつろげるとか、そういった面を重視している」。
なぜなら「流行に左右されず、人々に長く愛され続ける店をつくりたいから」。そして、そのために最優先すべきポイントが「居心地のよさ」であるというのは、経験則によって導き出された結論なのだと力説する。
飲食店の設計・デザインというジャンルを極めたい
仕事が軌道に乗り、オファーが絶え間なく舞い込むようになった現在の状況について、「忙しくて手が足りない。手伝ってくれる人はいないだろうか?」と冗談交じりに訴えつつ、「自分は、あまり“我”を出す方ではなく、意見を押し通すようなこともない。クライアントの意向を重視することはもちろん、現場の職人さんたちの意見ややり方も尊重し、皆で良いものをつくろうという気持ちでやってきた。もしかしたら、そんなところから上昇気流が生まれたのかもしれない」と控えめな見解。また「どんなに仕事が殺到しようと、安心や満足とは無縁。将来の保証など何もないのがフリーランスだから」と気を引き締めることも忘れないのである。
今後については、引き続き飲食店の設計・デザインを戦場とし、徐々に仕事の幅を広げていきたいと考えているそう。「これまで多く手がけてきたのは、居酒屋やバルなど、家族や友人たちとワイワイ盛り上がるような庶民的な店なので、高級路線の店にもチャレンジしたい。さらには、得意の書を活かした和テイストの店を海外で手がけてみたいという夢もある」。 飲食店は、新規オープンから3年以内でおよそ7割が閉店するといわれ、大変難しいビジネスである。しかし「だからこそ、やりがいを感じるし、まだまだわからないこともある。奥が深いこのジャンルを極めていきたい」と静かに、そして力強く語った。
※卒業生会報誌「MOGA PRESS」74号(2019年12月発刊)掲載記事
Profile
皿井秀明
株式会社サライデザインルーム
店舗デザイナー/書家
卒業後、株式会社星野デザインオフィスを経て独立し、株式会社サライデザインルームを設立。飲食店を中心に、年間50店舗のペースで店舗設計、デザインを手がけている。また、書家として、毎日書道展、創玄展、中日書道展を始め、数々の書道展での受賞歴がある。