News |

国際コンペティションでの評価を受け、大きな理想に向け自信を持って邁進中

FASHION
土居 哲也
株式会社RequaL代表取締役、ファッションデザイナー
ファッションデザイン学科高度専門士コース
大事にしているランウェイショーを
現実のブランドビジネスへつなげるために

相反する“日常”と“オートクチュール”の融合を目指して

今年で、ブランド創設8年目を迎える。
 造語であるブランド名は、時の単位としての「Re」、“等しく”という意の「equal」、そして合同記号「≡」を組み合せたものだ。
 「ファッションデザインは、自分の生き方や他者とのコミュニケーションを通して得られるインスピレーションや現象が、ひとつにまとまっていくことから生まれるものと思っています」

そう語る土居氏が、ファッションに目覚めたきっかけは音楽。1996年から2019年にかけて活動したロックバンド、Janne Da Arcのボーカリスト・yasuへの憧れが原動力となった。
 「高校生時代に大きな影響を受けました。yasuさんに近づきたい一心で、上京してきたくらいですから。“装い”というものに対する自分の原点は何だったのかと考えると、Janne Da Arcの爆音とyasuさんの姿が思い浮かびます。ブランドを始め、いつかは仕事でお会いできるのかなと夢見ていたのですが、結局、彼は人気絶頂期に喉を傷め、無期限で活動を休止してしまいました。だからお会いすることもかなわず、いまだに夢の人のまま。でも、ずっと夢であるからこそ、生きがいであり続けてるのかなとも思っています。もどかしいですけどね」

2019年、「イエール国際モードフェスティバル」、「TOKYO FASHION AWARD」、そしてウォルター・ヴァン・ベイレンドンク主催のファッションコンペ「ビッグデザインアワード」という、3つの賞を獲得。飛躍の年となった。受賞が土居氏個人やブランドに、どのような影響を与えたのだろうか。
 「イエールはもともと、メゾンデザイナーを輩出することを目的とする国際コンペティションですので、メゾンブランドが追求してきたオートクチュールの世界の素晴らしさに、より深く触れることができました。うちのブランドは立ち上げ当初より、“日常で身につけられるオートクチュール”というテーマを掲げて活動しています。でも本来、日常とオートクチュールは相反するもの。その異なる文脈を融合して、東京から発信していきたいという思いがあってイエールにチャレンジし、認められたのは大きかった。今も変わらず、イエールで確信したコレクションの精神を、ブランドに転換させるというイメージで活動しています」

RequaL ≡ は、中核となるコレクション事業のほか、アーティスト・芸能人の衣装制作やアクセサリー事業、国内外の小売や卸売事業をメインとする衣類ビジネスをおこなっている。
 その中で、もっともやり甲斐のある仕事は、ランウェイショーだと言い切る。
 「ショーができることは、奇跡そのもの。人が歩く瞬間の最大限の美しさを、毎シーズン精一杯、丹念に表現しています」と語るほど、ランウェイショーに対する思いは強い。
 「私がこのブランドでもっとも大切にしているのは、ショーを通じて人に“服の面白さを伝え続ける”ということ。でも現実では、コレクションとブランドビジネスは、やっぱり全然違うもの。国際コンペティションでつくった服は特別な一着で、ファッションの可能性をいかに見出だせられるか、いかに夢を見させられるかという挑戦です。でもブランドビジネスは、“大量生産で何着売るか”というような、合理的な解釈の中で動いているもの。2019年の3つの受賞で、日常とオートクチュールの融合に道筋が見えた気はしたのですが、実際にはその後もギャップに悩み、苦しみ続けているんですよ」

ブランドのコンセプトを具現化した二つの自信作

ランウェイショーを通じて人に夢を見させられることが、自分にとっては人生のハイライトであると語る土居氏。
 だが現実のファッションビジネスは夢にとどまらず、日常的に身につけられる服によって、かっこ良さや楽しさを届けることが大切だ。

これまでつくったなかで、特に思い入れが強い会心作は?という質問に応えて見せてくれた2つのアイテムは、まさにそんな土居氏の思いを具現化したようなものだった。
 「ひとつは、構想から4年半ぐらいかけてつくった腕時計です。『自分だけの時間を刻む』というテーマのもと、200年におよぶ時計の歴史をリサーチし、異なる時間軸を象徴する異なる針を複合させました。この時計、すべての針が動いているんです。私のブランドは、『時の単位を常に等しく』というコンセプトで活動しているので、“時間に対して等しくある”ということを象徴するアイテムかなと思っています」

自信作の2つ目は靴だった。
 「“ダブルシェイプローファー”と名づけたこの靴は、超現実主義、シュルレアリズムというアート思想を着想源にしています。人の足の動きをコマ撮りしたときに見える残像を表現し、前と後ろ、過去と未来の世界を一足のローファーに集約しているんです」

最後に、モード学園に在校した日々について伺った。
 「劣等生だったんですよ。物覚えも悪いし絵も下手くそ。だけど創作に対する渇望感は強く、創造への眼差しという意味で、誰よりも熱い感情を秘めていたと思います。そして、モード学園では生涯の友だちができました。KHOKI※1で活躍する友人と4年間ひとつ屋根の下で暮らし、小西翔君※2とは今でも深い関係性が続いています。私たちは今もライバルであり、家族であり、友人であり続けていますが、その始まりはモード学園にありました。2年生の三校統一創作デザイン画コンテストでは、私を含むその3人が1位~3位に入賞しました。常に背中を意識していた2人が、今は世界で活躍しています。でも本当の壁は、他者ではなくいつも自分にある。彼らの勇姿に尊敬や最大限の敬意を払いつつ、私も私自身を超えていきたいと、今も強く渇望しながら創作に没頭しているんですよ」

今後の目標は「ずっと、ずっと続けていくこと」と語る土居氏。きっとその頭の中には、モード学園での楽しき日々、栄光の受賞の瞬間、そして未来のランウェイショーの構想などが、等しい時間軸上に展開されているのだろう。

※1
さまざまなラグジュアリーブランドで経験を積んだメンバーによって設立された、東京を拠点とするデザインチームにより展開されるファッションブランド。
※2
東京パラリンピック開会式のギタリスト布袋寅泰の衣装ほか、英国ボーグ誌表紙のビヨンセ衣装制作に携わるなど世界で活躍するファッションデザイナー。
※卒業生会報誌「MOGA PRESS」78号(2023年11月)掲載記事

PROFILE

土居 哲也
株式会社RequaL代表取締役、ファッションデザイナー
ファッションデザイン学科高度専門士コース

岡山県出身。モード学園卒業後、様々なファッション教育機関で修学し、坂部三樹郎氏や山縣良和氏を師事する。その後、友人とともにRe:quaL≡(リコール)として活動を開始。構築的なフォルムをダイナミックなデザインに落とし込んだブランドとして、国内外から熱く注目されている。第34回イエール国際モードフェスティバル モード部門 Honourable mention from the jury授賞。