積み重ねてきたすべてをかけてブランドを牽引する
- 伊藤 良太(上写真・右)
- アパレルデザイナー
- 1996年ファッションデザイン学科卒業
- 麻谷 優次(上写真・左)
- シューズデザイナー
- 1999年ファッションデザイン学科卒業
『ルコックスポルティフ』のチーフデザイナーとして活躍中
日本を代表するスポーツメーカーであるデサント。伊藤良太氏、麻谷優次氏は、同社の主力ブランドのひとつ、『ルコックスポルティフ』のチーフデザイナーとして多彩に活躍中だ。
2人はともに新卒入社組。「ファッションもいいかな…程度の漠然とした気持ちでモード学園に入学したが、服づくりを学ぶうちに心に描いたものを自分の手で形にする面白さに目覚めた。そして進路を考えたとき、最先端のモード系よりも、自分が好きなスポーツというジャンルで勝負したいと思った」という伊藤氏は、入社以来『ルコックスポルティフ』ひと筋。20年以上にわたって『ルコックスポルティフ』のデザインに携わり、現在はサイクリング、テニスなどの競技ウェアやトレーニングウェア、およびライフスタイルウェアのデザインでその手腕を発揮している。
一方、麻谷氏は「何かを創る仕事に就きたかった。画家、芸術家、料理人、華道家(小原流の資格を取得している!)など、様々な方向性を検討した末に大好きなファッションの道へ進もうと決心。モード学園でぶっ飛んだ感性の仲間たちと刺激的な日々を満喫したのち、縁があったのが今の会社だった」と語る。「興味があったのはメンズファッションで、実はスポーツはそれほど…」と苦笑いするが、ウェア、バッグ、雑貨のデザイナー、シューズMDなどを経験し、ファッションビジネスのノウハウを蓄えながら気がつけば18年。現在は『ルコックスポルティフ』のシューズ部門で持ち前のセンスを活かしたクリエイションを展開中である。
落ち着いた雰囲気で懐の深さを感じさせる伊藤氏と、軽やかな自由人という印象の麻谷氏。対照的な先輩、後輩だが「発想やアイディアには案外共通点がある」(伊藤氏)そうで、ブランドを盛り上げていく同志として確かな信頼関係を築いている。
企業デザイナーだからこそ味わえる喜びもあれば苦労もある
1882年創業、フランス最古のスポーツブランドである『ルコックスポルティフ』。歴史ある有名ブランドのデザイナーとしての立ち位置とはいかなるものかという素朴な質問に「おそらく、個人でブランドを立ち上げてやっていくのとは大分違うだろう」と2人は声をそろえる。
「創業者のスピリッツがあり、長らく積み重ねてきた伝統があり、それを伝えていくことが大前提」(伊藤氏)。常にブランドのフィルターを通してジャッジが必要というルールは、ときにジレンマを生むこともあるが、ハードルをクリアし、いかにして製品を完成させていくかは腕の見せどころでもある。そうやって世に送り出した製品が多くの人々に支持され、親しまれていく喜びは何物にも代えがたく「街で自分がデザインしたウェアを着ている人を見かけると、本当に嬉しくなる」という。
加えて、もうひとつ大事なことがある。「やはり企業だから、売れてなんぼの世界」(麻谷氏)。当然売上等にも敏感にならざるを得ない。「だから製品ができ上がったとき以上に、売れたときはより実感が湧いて嬉しい。セールになる前に完売となれば、この上ない達成感がある」。昨今はファッションのシーズン展開が加速しており、めまぐるしく変化するトレンドやニーズに対応しつつ売上につながる魅力的な新作を発表していくことが求められる。が、しかし、そんなハードルをやりがいへと転化させていく術も、キャリアを重ねる中で培った。世界に名だたるブランドをたゆまなく前進させるために、「あらゆる方向にアンテナを張り、色々な場所へ足を運ぶ」(伊藤氏)、「未経験のことや知らない人との触れ合いを求めてどんどん動いていく」(麻谷氏)と、引き出しを増やす努力を怠らない。
ブランドの成長を支えるとともに自分自身も前進を
デザイナーとして円熟期を迎えている2人に今後の目標、夢を尋ねると、伊藤氏からは「さらにブランドを育てていけるよう、デザインだけでなくどう売っていくか、どうブランドを育てていくかを考えられるディレクターとして成長していきたい」との回答が返ってきた。加えて、『ルコックスポルティフ』と関わりの深い「ツール・ド・フランス」の認知度アップにも並々ならぬ情熱を持つ。「世界最大の自転車レースだが、日本ではまだメジャーとはいえず歯がゆさがある」。切なる思いは、自転車を背景にしたライフスタイルコレクション「ル・アーバンスタイル」の展開にも紐づいているという。
また麻谷氏は『ルコックスポルティフ』が持つフランスの伝統的な面と日本の良さ、たとえば企画力や技術力、繊細な感覚などを融合させた日本市場に合う商品を開発していきたい」と語る。取り組みはすでにスタートさせており、老舗スニーカーショップ・ミタスニーカーズとのコラボレーションはその一例である。そして「さらに先の夢は社長になること。デサントで…ということではなく、次世代のライフスタイルスポーツカンパニーをつくりたい」と豪快に笑った。
昔も今もファッション業界で生き残っていくのは厳しい。だが、情熱と信念をエンジンに突き進めば第一線で走り続けることができると、2人はその歩みをもって示している。「この道に進みたいのなら視野を広く持つこと。視点を変えると違った面白さが見えてくる」(伊藤氏)、「クリエイティブは絶対になくならないジャンルだから、自分を信じて挑んでほしい」(麻谷氏)。最後は後輩たちへのホットなメッセージで締め括ってくれた。
- 伊藤 良太(上写真・右)
- 卒業後、株式会社デサントに入社。ルコックスポルティフ・チーフデザイナーとして、アパレル製品の機能からビジュアルまでを統括する。自身もサイクリストであることからサイクリングウェアへの思い入れは強く、フランスのエスプリを利かせた機能美あふれるコレクションを発表している。
- 麻谷 優次(上写真・左)
- 卒業後、株式会社デサントに入社。ルコックスポルティフ・チーフデザイナーとして、シューズデザイン、デザインディレクションを担当する。近年は異業種ブランドやタレント、アーティストとのコラボレーションに取り組み、ブランドの新たな可能性を開拓している。
※卒業生会報誌「MOGA PRESS」72号(2017年11月発刊)掲載記事