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特集「OH MY BRAND!」
「ワッ」と感じさせて、
「やられた」と思わせることができたら勝ちだ

FASHION

大嶋 祐輝

2014年に自身のブランド『amok』をスタートさせた大嶋祐輝氏。次代のファッションシーンの担い手として期待を集める、新進気鋭のデザイナーの1人である。

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大嶋 祐輝

2010年ファッションデザイン学科卒業。『MIHARA YASUHIRO』、『ANREALAGE』のパタンナーを経て、2014年11月に独立。『amok(アモク)』を立ち上げる。2015-16年秋冬に、デビューコレクション『SCRATCH』を発表。削ることで本当の姿が現れるスクラッチのように、重ねられたディテールの表面は形や柄を精密に削り出し、下には年代の違う形や柄が見え隠れするギミックを効かせたラインナップで話題をさらう。

ブランド名の由来は「暗黙知」

『amok』とは、大嶋氏が好きな言葉「暗黙知(あんもくち)」に由来する。「言葉にできない知識や動き」「無意識の感覚」といった意味であり、自身が抱く「ワッと感じたり、この服すごい!と高揚したり、そんな言葉では表せない服づくりをしたい」という想いを象徴している。ブラントコンセプトは「温故知新」。もともと大の古着好きで、解体や再構築を楽しんだりする中で、「古いものに新しい技術や加工をミックスさせてみたい」という発想から生まれたのが出発点だ。

独立前は、服づくりの概念に捉われずにハイテク技術を用いたクリエイションを展開する『ANREALAGE』でチーフパタンナーを務めていた。様々な加工を依頼するため多くの職人たちと関わりがあり、「皆それぞれに面白い技術を持っていて、そこにもうひと手間加えたら、驚くものが生まれるんじゃないか」という想いが芽生える。そして、匠の技術を持つ職人たちを巻き込み、自分が創りたいものを創ってみたいという意欲が醸成されていったことが、ブランド設立への道標となった。自然に、少しずつ、パタンナーではなく自ら創ることへの欲求が膨らんでいったのだという。

『MIHARA YASUHIRO』、『A DEGREE FAHRENHEIT』、『ANREALAGE』

思い込んだら突き進む、猪突猛進型。これまでも「やりたい」を起爆剤に自分でチャンスを掴みにいき、都度ものにしながら歩んできた。

モード学園3年生の時、インターンシップでは大好きなブランド、『MIHARA YASUHIRO』へ。推薦枠は2名と狭き門だったが、「何としてもここで働きたい」という一途な願いを、行動力と周囲へのアピール力で実らせる。ここでパタンナーとしてキャリアをスタートさせたことが、現在の大嶋氏の礎になった。実はパターンは好きではなかったが「やってみたら面白くて夢中になった」のだそう。学生の自分に惜しみなくノウハウを伝授してくれる恵まれた環境だったことも加わり、毎日が楽しく刺激的で、インターン終了後も継続して、アルバイトとして通い詰めた。

さらに、4年生の時は並行して、モード学園の先輩、天津憂氏が手がける『A DEGREE FAHRENHEIT』を手伝うことに。ニューヨークを中心に展開していた同ブランドが、東京コレクションにデビューするというタイミングで担任の先生にサポートの声をかけられ、コレクションブランドに興味津々だった大嶋氏は即OKした。しかしながら学業と2つの仕事のかけ持ちで忙しさは凄まじく、「学校に行って、『MIHARA YASUHIRO』へ行って、終電で帰って、『A DEGREEFAHRENHEIT』の仕事をして、課題をこなして、また学校に行く、鬼のような生活だった」と苦笑い。「それでも、実践的なノウハウを始め、得難い経験ができて、本当にやって良かったと思う」とにこやかに続けた。

『MIHARA YASUHIRO』でのアルバイトは卒業まで続き、なんとそのまま就職まで果たした。そしてパタンナーとしてしばらく務めた後、縁あって『ANREALAGE』へ。創造性豊かな服づくりで知られる森永邦彦氏による同ブランドは、まさに大嶋氏がいうところの、「ワッ」と感じさせてくれる斬新さが特長。チーフパタンナーとしてすべてを任されることになり、仕事においてはもちろん、人としても魅力あふれる森永氏に心酔し、期待に応えたい一心で奮闘。そして憧れのパリコレも経験する。「森永さんのやることをわかろうとして、必死で食らいついていたような…教わったことがあり過ぎて、どれだけ成長させてもらったか計り知れない」。

想い描いている夢のため、ブランドの土台づくりを

先頃2016年春夏コレクションを発表し、『amok』はようやく2シーズン目を終えたばかり。当然ながら型数はまだ多くないが「その分一着に対する重みは強い。すごく練っている」という。これまで手がけてきた仕事を通じて自分が見てきたことに絶対的な自信があり、それを表現へと昇華する力は唯一無二だ。毎回、壊しては創る作業を繰り返し、妥協せずに創り上げてきた。そこは誰にも負けていないという自負がある。

もちろん、ブランド創成期であるため試行錯誤は多い。実制作以外にプレス、営業、経理などもこなさなければならず、ビジネスとクリエイションのバランスにも気を配る。「今はそういうところも含めて、ブランドの土台を築いているところ。それがしっかりできた後にぶっ飛んだことをやりたい」。ファッションショー、レディス展開、国内での浸透を図った後には海外進出…と夢は膨らむ。

「流行と無関係ではいられないファッションは、ある意味残酷。年2回、展示会に向け命を注いで創った服は、半年後、販売を経て消えてしまう。けれども、自分がそうであるように、あのシーズンのあの服…と、人の心に深く刻まれる服はたくさんあるはず。だからこそ、そういう服を創っていきたい。作品になる服、印象に残る服を」。大嶋氏の、『amok』の、チャレンジは始まったばかりである。

『amok(アモク)』
大嶋祐輝氏が展開するメンズブランド。2016年春夏コレクションのテーマは『OVERLAP』。洋服に施された柄は、ボンディング、レーザーカット、スクラッチ加工など様々な加工で表現され、レイヤーされたディテールは柄を重ね合わせることによりオーバーラップする表現を特徴としている。

※卒業生会報誌「MOGA PRESS」70号(2015年11月発刊)掲載記事