日本の伝統工芸を駆使したクリエイションをロンドンから発信
中村 淳
JU-NNA
ファッションデザイナー
異国でのコロナショック、しかし服づくりへの情熱は揺らがない
ロンドンを拠点に、ウィメンズブランド『JU-NNA(ジュナ)』を展開する中村淳氏。日本の伝統工芸である「絞り」の技術とヨーロッパのデザイン手法を融合させた独創的なコレクションは国際的に高く評価され、“新しいファッション革命”と称されるほどである。
糸で生地をくくって模様を表す「絞り」は染色技法のひとつ。しかし、中村氏はこれを「形をつくることを目的に取り入れている」という。
「絞りのサイズやパターンを変えることで、服に個性的な立体感が生まれる。その創造性を追求し、新しい価値観を創出するとともに、日本が誇る伝統技術の継承に貢献する役目も果たせたらとの想いがあります」
2020年は、『JU-NNA』のさらなる飛躍を期していたが、コロナショックで足踏みを余儀なくされた。しかし、「ファッションウイークがなくなったことは予想外でしたが、状況なんて良いときもあれば、そうでないときもあるもの」と泰然自若。生まれて初めて体験したロックダウンについても、「外に出られないぶん、服づくりに専念できた」と、どこまでもプラス思考だ。
今後は「コロナの状況に応じて、発表や販売のスタイルを変えていく必要がある」としながら、「まずは次のコレクションの創作に集中する」とのこと。日本に戻る考えはなく、今の環境で創作活動を続けていくという。
「ロンドンは様々な人種が暮らす多国籍都市で、とても面白い。人々はフレンドリーで親切、街並みや雰囲気も肌に合うと感じています。また、私はデザインの着想をアートから得ることが多いのですが、この街はアート系の図書館や美術館が充実していて、それも大きな魅力です」
企業勤めを経てからファッションデザイナーを志す
プリント生地に絞りを施すといった前例のない加工にチャレンジするなど、従来の常識にとらわれない発想で奇才を放つ中村氏だが、「ファッションデザインに興味を持ったのは、大学卒業後に呉服業界で働くようになってから」というから驚きだ。
「服飾の仕事に関わるうちに自分で服づくりをしてみたくなり、必要なスキルを身につけるためにモード学園に入学しました。モード学園を選んだのは、いくつか学校を調べた中で一番厳しそうだったからで、その選択は大正解。学んだひとつ一つが現在の作品づくりに活かされています」
卒業後はアパレルメーカーに入社し、デザインに加え、企画や生産管理などの業務を担当。世界を飛び回る中で「海外で勝負したい」との気持ちが芽生え、ロンドンの大学院「Istituto Marangoni London」への留学を決めた。そして、在学中に発表したコレクションが複数の国際デザインコンペティションにノミネートされるなどして注目を集め、『JU-NNA』の設立に至る。
そんな自身のあゆみについて、「遅いスタートだったし、ずいぶん遠回りをしたようにも思います。けれども、時間をかけないと辿りつけない場所もあるから…」と、うなずきつつ笑顔。そして「自分の経験を踏まえて、ファッションデザイナーを目指す後輩たちには、たとえ回り道をすることになっても、あきらめないで欲しいと伝えたいですね」と、温かいメッセージを贈ってくれた。
※卒業生会報誌「MOGA PRESS」75号(2021年1月発刊)掲載記事
Profile
中村 淳
JU-NNA
ファッションデザイナー
大学卒業後、呉服業界に就職。離職後、モード学園に入学。卒業後、アパレルメーカー勤務を経て、2017年に渡英。「Istituto Marangoni London」ファッションデザインウィメンズウェア修士課程で学ぶ。修士号取得後、2019年にイギリスファッション協会より認定を受け、難関をクリアしてエクセプショナルタレントビザを取得。同年、ロンドンにて『JU-NNA』を設立する。