News |

好奇心をもって自由なマインドで、コロナ禍でもブランドをスタート

FASHION
富塚 尚樹 デザイナー
2001年ファッションデザイン学科卒業

着る人もドレス自体も心躍り、誰かの人生の片隅にあり続ける

パリから帰国後、COMME des GARCONSのパタンナー、lirotoのデザイナーを経て、自身の名前を冠したnaokitomizukaをコロナ禍の2020年に発表した富塚尚樹氏。デビュー以来、Rakuten Fashion Week TOKYOにも参加し、優美なパターンテクニックを披露し続けている。「lirotoをやめてから、フリーで外注のパターンの仕事をしていて、そろそろブランドを始めたいなと思っていた時にコロナが始まって。アパレルが厳しいという話もありましたが、最初のコレクションはどうせ売れないだろうから、好きなものをつくろうということで始めました。売る目的じゃなくて、作品として発表しようと思ってちょっとつくってみたという感じです」。コンセプトは“何年経っても心はずむ服”。由来は立体裁断の祖といわれるマドレーヌ・ヴィオネの名言「女性が笑うとき、そのドレスも笑うようにつくらなければ」からきているそう。「それこそ学生時代から思っていることなんですけど、つくった服を着た人が喜んでくれた時が一番楽しいんですよね。その気持ちを大事にしつつ、マドレーヌ・ヴィオネの言葉のように、ドレス自体も心弾んでいないといけないなと思っています。この感覚がずっと心の片隅にあるんです」。

口調はつねに穏やかで、奢ることも気取ることもなく自然体だ。その実、“心はずむ服”には静かな思いも馳せられている。「心がはずむ服って、捨てないと思うんですよ。誰かの人生にそんなに入り込むつもりはないんだけど、何か思い入れがあったり、気になったり、大事にしてもらえるって結構いいことだなと思っていて、それをみんなが同じように思っていたら、大量生産大量廃棄ってことも起こらないと思うんです。SDGsについて語ると難しくなっちゃいますけど、そのくらいのマインドがいいんじゃないかなと思っています」。

COMME des GARCONSでの経験は13年にもわたる。働きながら培った“制約があるなかで自由につくる”という考え方は、今のものづくりにも反映されている。「入社したときから、辞めるときまで、より良いものをまたつくるということを同じモチベーションで繰り返していたので、長いようであっという間でした。楽しくてやりがいはあるけれど、やっぱり学生の頃からずっと、自分の名前でブランドをやりたいと思っていたので、当時の気持ちをもう一度思い出してみたんです」。

パリでの経験を経て、ファッションウィークにも参加しているが、コレクションブランドとはまた違う考えを持つ。「1年後の服を1年前に発表することに、すごく不自然な感じを覚えています。まだコレクションの枠の中に入って展開していますが、そのとき欲しいものを買える環境にしていったほうがいいんじゃないかなと思っていて。僕も、一度この服をつくったからもう終わりっていうことじゃなくて、数年後にまた再販するようなこともしていきたいですね」

工場と繋がることで、ブランドを立ち上げることができたという想いも強い。その縁を大事にしながら、今はファクトリーブランドのサポートなども行っている。「言い訳かもしれないけど、小さい規模でやっているとつくり手の顔まで見られていいんですよね。変わったことをやっていても、ファッションって楽しいんだなあと伝えられているんじゃないかなと思っています」。

“楽しい”というキーワードが多く出てくるのが印象的だ。海外経験もあるなかで、日本を選んだ理由を聞いてみた。「誰でもファッションに挑戦できて、みんながファッションを楽しめる国って日本くらいしかないんじゃないかと思うんです。今はSNSもあるから、誰にでもチャンスがあって、誰にでも仕事に繋げることができてすごくいい環境だなと思っています」

最後に、イメージソースについて尋ねると、こんな答えが返ってきた。「過去の記憶から生まれているような気がするので、なるべく自由な発想でいられるように、一方的な見方をしないように心がけています。そして、好奇心旺盛なマインドを保つこと。ブランドには人それぞれの作風が出るし、それがブランドだと思うので、生きてきたことや見聞きしてきたことが影響するんだと思います」

若い人と話したり、文化に触れたり、なくしてはいけないものを大切にしながら、新しい刺激にも積極的に触れる。自分のペースを保ちながら、新たにスタートを切ったnaokitomizukaと共に、これからの道を歩んでいく。

PROFILE

卒業後、フランスのMarc Le Bihanで経験を積んだ後に帰国。その経験を活かしてCOMMEdes GARCONSに入社し、企画やパターンを担当する。2017年に同社を退社し、パタンナーの経験と感性をいかした自身のブランドlirotoを立ち上げる。2020年、独立してnaokitomizukaを発表。舞台演出家の藤田貴大とタッグを組んだランウェイが話題に。