ヨウジヤマモトからオリジナルブランドへ。同級生と見据える未来/『ANTOK』木代康太氏インタビュー
- 木代 康太
- 「ANTOK」ディレクター
- ファッションデザイン学科卒
ヨウジヤマモトからオリジナルブランドへ 同級生と見据える未来
「売りたい」から「つくりたい」へ。モードで新たな才能を知る
デビューして間もないANTOKは、大阪モード学園を卒業した同級生が立ち上げたサステナビリティに取り組む新進気鋭のブランドだ。デザインは誰かひとりを立てるのではなく、チームで行う。舵をとっているのはヨウジヤマモトでパタンナーとして腕を振るってきた木代康太氏だ。
入学当初は販売員を目指していたが、ファッションデザイン学科でひと通り学び、いつしか服を売ることからつくることへ気持ちが動いていく。「校内のコンテストで賞をもらったり、描いた絵が評価されたりして、自分には表現のほうが合っているのかなと思い始めて。その世界も覗いてみたくなったんです」
学生時代は課題に追われる日々。毎日居残って作業に没頭した。「学校生活で1番楽しかったのは、パターンメイキングの授業です。平面で考えたものが、実際に服として立体的になることを考えながら、真っ白い紙に向かって作図している時間が好きで。ものになるまでの過程に惹かれました」。1番の思い出は卒業制作展だ。尖っていたり頑固だったりと個性的なメンバーで協力し合い、時に喧嘩もしながら半年間かけてつくり上げた。
そして、「1年の秋に出会って以来、ずっと着ていた」という憧れのヨウジヤマモトに採用が決まった。高倍率の狭き門をくぐり抜け、名ブランドのパタンナーに。入学時には想像し得なかった世界が待っていた。“見て学べ”の世界で働いた5年間は体力的にしんどい時があっても、ずっと楽しかったという。「第一線のブランドなので、そこでの経験は大きかったです。ヨウジの服はそれぞれのパタンナーの味が強く出ます。それをパリで発表できて、それが賞賛されて、売上げにも繋がっていく。“日の目を浴びられるパタンナー”という存在に感激しました」
未来に繋がる今をつくる、ものづくりの使命感
多大な影響を受けていたが、6年目に転機が訪れる。「30までに自分の名前に対する肩書きが欲しかったことがひとつ。もうひとつは環境問題です。繊維産業は石油産業に次いで地球を汚染すると言われていて、地球の未来を考えると、今の状態が続いていくことに疑問を覚えました」
そして同級生に声をかけ、SDGsのブランドを展開することにした。「自分ひとりの考えより、みんなの声が入ったものづくりがしたくてチームにしました。学生時代からずっと一緒だったメンバーなので、当時の延長です」。異なる感性を統一していく作業は、難しくもあり、面白くもある。
ブランドのコンセプトは"今が未来へ"。「自分たちのものづくりが、今後の未来によい影響を与えなければならないと思っています。日本ではSDGsの考えがなかなか認知されませんが、今後間違いなく必要になるので、このキャッチフレーズを掲げました」。
リサイクルペットボトル、オリーブの種や米、木炭による染色。リンゴの皮を使ったフェイクレザーのブルゾンまである。「原価は上がりますが、そこがぶれるわけにはいかないので、今はぐっと堪えるしかありません。ANTOKが花開くまでは頑張ろうと、もう必死です」。他のメンバーも本業をもちながら、ANTOKは無償で手がけている状態だ。
一方、年々売上げも少しずつ上がり、取引先も着実に増えてきた。それでも仕事のやりがいを聞くと、「平面に描かれていたものが、服として形になったときですね」と、そこには学生時代と変わらないパターンへの愛情がある。
「ヨウジを見てきたので、東コレ、パリコレと進んで、世界中の人にANTOKの名前を知ってもらえるように。そして、SDGsの考えがもっと普及するように。自分たちが先陣を切って進めているので、若者が環境を意識した動きをしていることをたくさんの人に考えてほしいです」。未来を見据えた、今の在り方。使命感に燃えるANTOKの挑戦は、まだ始まったばかりだ。
※卒業生会報誌「MOGA PRESS」79号(2024年11月)掲載記事PROFILE
- 木代 康太
- 「ANTOK」ディレクター
- ファッションデザイン学科卒
ANTOK/アントック。元ヨウジヤマモトのパタンナーである木代康太が中心となり、2022年に立ち上げたデザインチーム。特定の人物をデザイナーに掲げず、様々なブランドで活躍する複数のデザイナーで構成されている。“今が未来へ”をコンセプトに、環境づくりに配慮したサステナブルなものづくりを行い、伝統的な技術を用いながら非日常を味わえる現代のアイテムを展開する。