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学生の頃に夢見た“王道”の先にあるもの/「KHOKI」ディレクターKoki Abe氏

FASHION
Koki Abe
「KHOKI」ディレクター
ファッションデザイン学科卒
学生の頃に夢見た“ 王道”の先にあるもの

同級生と切磋琢磨しながら、いつしか本気のものづくりに

2019年にデビューしたメンズウェアブランド「KHOKI」。代表デザイナーをもうけず、個々の背景を明かさないチームとしての活動を続けている。メンバーで共通しているものは、ものづくりに対する姿勢。「簡単に言うと、どこまで妥協できるか、できないかの感覚」だという。謎に包まれた実態について、ディレクターを務めるKoki Abe氏にお話を伺った。
「そこまで自分の将来に強い思いを抱いている10代ではありませんでした。田舎を出たい気持ちや、東京への憧れが若いなりにあったんでしょうけど」と、当時を振り返って口にする。

モード学園の体験入学で、隣に座った子がおしゃれで面白くて、彼と同じファッションデザイン学科に進んだ。「入学後は、学業のスイッチが入る環境をつくれたと思います。僕は人に恵まれていて、本気でものづくりに向かう同級生がとても多かったので、その都度、自分も真剣になれました」

在学時は学外のコンペディションにも積極的に参加。ソロでの参加が多かったが、チームで分担するときは切磋琢磨しながら程よい緊張感のある関係を構築した。「みんなで夜通し服をつくる経験は、今考えると青春でしたね」。

最終学年では、神戸ファッションコンテストでグランプリを獲得し、イギリスの大学に編入することに。1年を通して自分のコレクションをつくるプロジェクトに参加し、ロンドンファッションウィークに選出される。「それを見たアンスティチュ・フランセ・ドゥ・ラ・モード※1の学長から、奨学生として入学のオファーをいただいてパリに移ることになりました」と、偉業を淡々と語る。

ビザの関係でパリから日本へ戻る際、「ちょっと働いてみるのもいいな」とポートフォリオを送ると、ここでもとんとん拍子にブランドから声がかかり、そこから国内ブランドで3年間を過ごす。

「働き始めると、どこまでものづくりに対して気持ちを入れなきゃいけないかっていう、深度というか姿勢というか、その感覚が想像していたよりも遥かに高かったことがわかって、その時、自分が見えないレベルがあったことを知りました。そこに対してネガティブな感覚は一切なく、むしろ嬉しかったです。まだまだ自分もここで成長できるし、挑戦しがいがあると思いました」

※1 パリのモード・ファッションの学校。イッセイ・ミヤケやイヴ・サンローランらを輩出しており、世界的評価も高い。

チームの想いで醸成されていく、「KHOKIとは何か」

充実した毎日を送る中、なぜKHOKIを立ち上げることになったのだろう。

「自分も会社員として働くなか、プライベートでも気の合う仲間と集まってものづくりがしたくなって」と当たり前のように語るが、サラリーマンとの両立は時間との戦いでもある。
終業後の0時にメンバーで集まり、夜な夜な縫製して、深夜3時頃サンプルをあげるような日々が続いた。それでも、いつかの青春のように服をつくる。「やっぱり楽しかったんでしょうね。ものづくりが純粋に好きな人たちが集まって、会社でつくるものとは違う、もう少しパーソナルなものづくりをすることで、何かから解放されたいような気持ちがあったのかもしれません。自分が働いている現場に疑問があったわけではなく、自分たちが今つくりたいものをもっと自由な発想でつくりたいという気持ちです」。

  • 生地やサンプルなどが雑然と並ぶアトリエ内。この日も作業に勤しむスタッフの姿が見えた
  • 〝マーケット〟をテーマにした2025SS。コッキらしいクラフトワークが光る。

最初の展示会は趣味の延長のようなもの。ブランド名の「KHOKI」も、その展示会の名前だった。「そこまで深い意味はなく、別にどんな名前でもよかったんです。一応、僕が旗振り人で、あまり日本で馴染みのない音がいいなと思った時、イギリスでみんなが僕の名前をコッキと発音するのを思い出して」。

“人の手が見えるものづくり”をキーワードに掲げ、真摯に洋服をつくり続けた結果、人が人を呼び、認知も広がり、少しずつ規模が大きくなっていった。
「みんなの信頼関係や好きなものが凝縮されて、少しずつKHOKIとは何かができあがってきている段階にあります。僕らもその言葉を探りながらつくっている感覚です。でも、確かにそこには“何か”がある。もちろんディレクターである僕のルーツの比率は大きくなりますが、それも僕の完全なパーソナルなものではないし、チームからたくさんの影響を受けています」

王道を経験した上で、その先にある新しい世界

KHOKIでは、“すべての工程がデザインになる”という考え方がベースにある。パタンナーが線を引くこと、生産管理が工場に届けること、広報の見せ方、すべてがデザインだからこそ、デザイナーという立ち位置を設けていない。「お客様に洋服が届く行為そのものが、僕らが提供するデザイン」だという。

法人化してからすぐ、東京ファッションアワード2023を受賞したことで、楽天ファッションウィーク東京で2023-24秋冬コレクションを披露することになり、鮮烈なランウェイデビューを飾った。
「本当はステップ・バイ・ステップでいきたかった」という言葉とは裏腹に、快進撃はとまらない。LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ2024では2500以上の応募の中から、セミファイナリスト20ブランドに選出された。審査員の錚々たる顔ぶれに「さすがにすごいところに来たと思いました」と屈託なく笑う。これを機にパリファッションウィークにも進出した。

当時は、国内外で活躍するモードの同級生の力も大いに借りたという。最後に、今後の目標を聞いてみた。
「KHOKIとしては、今パリに出て2年くらいが経ちました。学生の頃からみんなで憧れていた人たちを目指して、そこで自分たちが満足できるものづくりを表現したいというのが目先の目標ですね。自分個人の夢も、KHOKIの目標に近いところではありますが、今は自分が学生の頃に夢見ていた、ある種の王道をいっていると思うんです。今は自分たちもその中でしっかり表現して満足できるようになりたいと思っていますが、その先には、年に2回展示会を開いて売るという、この仕組みとは全然違う形を見つけて戦いたいという気持ちがあります」

強い思いがなかったという10代が嘘のように、そこにあるのは新たな挑戦に向かって燃える静かな炎だ。

※卒業生会報誌「MOGA PRESS」79号(2024年11月)掲載記事

PROFILE

Koki Abe
「KHOKI」ディレクター
ファッションデザイン学科卒

KHOKI(コッキ)。東京を拠点に活動するデザインチーム。ラグジュアリーブランドで経験を積んだメンバーで2019年に創設。「人の手が見えるモノづくり」をコンセプトに、キルトやカンタ、スザニなど伝統的手法を取り入れたメンズウェアを展開する。東京ファッションアワード2023を受賞後、楽天ファッションウィーク東京に参加。LVMH ヤング ファッション デザイナー プライズ2024では、日本人唯一となるセミファイナル進出を果たす。それを機として2024-25年秋冬パリ・ファッション・ウイークでプレゼンテーションを行った。オンラインストアEYEでは、オリジナル商品だけでなく、個々の私物も販売している。