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自分が創る服を世界の人に知ってほしい、着てほしい

FASHION

井野 将之/ファッションデザイナー
2002年ファッションデザイン学科卒業

“スケボーバッグ”がパリ「コレット」との縁を結ぶ

『doublet(ダブレット)』。ブランド名は、ルイス・キャロルが考案した言葉遊びのゲームに由来する。言葉の断片が数珠つなぎとなってまったく違う意味へとたどり着くように、ベーシックかつスタンダードなアイテムに唐突なアイディアを混ぜ込んだ“違和感のある日常着”を展開。「普通っぽいけどちょっとだけ変なもの。クスッと笑えるようなものが好き」。新進気鋭のファッションデザイナー、井野将之氏のイマジネーションが凝縮されたユニークな世界観が、ウェアから靴、バッグ、小物に至るまでファンタスティックに広がる。

2012年設立のフレッシュなメンズブランドだが、目下、海外で注目度が急上昇中である。そのきっかけは、パリの人気セレクトショップ「コレット」でアイテムが取り扱われるようになったこと。2013年に「Tokyo新人デザイナーファッション大賞」に入賞すると、その際に行われた渋谷ヒカリエでの展示にファッションジャーナリストのミーシャ・ジャネット氏が来場し、「『doublet』を大層気に入ってくれた」という。その後、彼女にコンタクトを取り『newneu.(ニューニュー)』とのコラボレーションによる“スケボーバッグ”を紹介すると、それを見た他のファッションジャーナリストが「ぜひ、ファッションウィークに持っていきたい!」と購入。それから事態は好転していく。パリのあちこちのショーでスケボーバッグを持った彼の姿がSNS上にアップされると、たちまち業界内で評判に。そして、ついには「コレット」が展示会を訪れ、商品を取り扱ってくれることとなる。憧れの「コレット」からのオファー。人から人へとつながり、ついに『doublet』の評判は海を越えた。「パリのファッションウィーク中、『doublet』のアイテムがディスプレイのド真ん中に飾られたということは、自分にとって大きなターニングポイントになった。さらに『GUCCI』『FENDI』といったハイブランドに組み合わせて自分が創った服が並んでいたり…思わず感動した」。そしてその様子はSNSによって瞬く間に世界中に拡散し、問い合わせが殺到。「自分が面白いと思ったものが、世界にもハマった。自分のユーモアが通じたのだと思うと嬉しいし、自信にもなった」。

楽しく、心地良く過ごしたモード学園での4年間

井野 将之

絵を描くのが好きで、漫画家になる夢をおぼろげながら描いていたという井野氏だが、高校時代に古着にハマったことから、ファッション熱が高まっていく。「群馬の地元から月に1回、バイト代を持って東京へ服を買いに行くのが楽しみだった」。そんな日々を過ごしながら、絵を描くこととファッション、自分の好きな2つがリンクするファッションデザイナーを目指すようになる。というのも「当時はファッションデザイナーといえば、好きな服の絵を描く仕事でしょ? くらいの認識しかなかったから(笑)」。

CMのインパクトにも後押しされてモード学園へ。ファッション好きの仲間に囲まれた4年間は、心の底から楽しく、心地良いものだった。社会に出れば、様々な思惑や価値観、背景を持った人と関わるのが世の中の常。たとえファッション業界であっても、服づくりが好きな人たちばかりとは限らない。「でも、あの空間には、純粋にファッションが好きで服をつくるのが好きな人たちばかりが集まっていた」。かけがえのない時間を共にしたモード学園時代の友人たちとは今もつながっていて、互いに刺激し合い、応援し合う仲だという。

服づくりはひとりではできない

最初に自身のブランドを立ち上げようと行動を起こしたのは、10年以上も前、『アバハウスインターナショナル』を退職した直後のことだった。しかし、大きな会社を辞めて個人になった自分をサポートしてくれる人はほぼゼロ。「要はこの人とやりたいって思ってもらえる関係を築けていなかったということ。今だからわかることだが」

一旦夢を断念し、縁があった『MIHARA YASUHIRO』へ入社。企画と生産部門を担当し、忙しい日々を過ごしながら、ビジネスとしての服づくりが何たるかを学んだ。「服づくりはひとりではできない。自分が考えたデザインを形にしてくれる人がいて、縫ってくれる工場があって、売ってくれるお店があって、初めて成り立つもの。今となっては当たり前だけど、その当たり前を本当の意味で知った」。そして7年の歳月をMIHARAで過ごした後、様々な会社や人とのつながりができると、再び「諦められなかった夢にチャレンジしたい」と思い立ち独立。待望のブランド設立を実現した。

「自分が創った服を着てくれている人がいることが単純に嬉しい。街で見かけるとテンションが上がって、駆け寄って握手したくなるほど」と目を輝かせながら語る井野氏。「賛否両論あっても構わない。自分の服を世界の人に知ってほしい、着てほしい」との想いで本格的な世界進出を見据える。2015年11月にはアジア6ヵ国が集う「第12回アジアファッション連合会 ベトナム・ハノイ大会」に日本代表として参加。海外で初めて自分の作品を発表する機会を得た。加えて前述の通り「コレット」での取り扱い以後、良い波も来ている。「ホームグラウンドである日本での展開も大切にしつつ、海外で展示会を積極的に行っていきたい」とプランを練っている最中だ。「前のシーズンよりも次のシーズンがより魅力的になるよう努力しているから、ブランド立ち上げ当時より今のほうが良い。だから、続けていくことは大事」。その言葉のとおり、『doublet』は着実に実績を積み上げ、勢いを増しながら前進し続けている。井野氏が止まらない限り、その軌跡は世界へと広がり続けるのだ。

井野 将之

卒業後 、株式会社アバハウスインターナショナル入社。企業デザイナーを経て、『MIHARA YASUHIRO』にて靴・アクセサリーの企画、生産に従事。2012年に『doublet(ダブレット)』を立ち上げ、2013春夏よりデビュー。2013年に「Tokyo新人デザイナーファッション大賞」プロ部門のビジネス支援デザイナーに選出され、最高位の東京都知事賞を受賞している。「トーキョー・ファッション・アワード2017」を受賞し、2017年1月パリ・メンズコレクションに出展する。

※卒業生会報誌「MOGA PRESS」70号(2015年11月発刊)掲載記事