授業
2026.5.27
日本で唯一、パリ オートクチュールウィークで公式ゲストデザイナーに選ばれ、パリでのコレクション発表10年目を迎えた中里唯馬氏による特別講義を行いました。中里氏は自身のブランド「YUIMA NAKAZATO」が世界から高い評価を受け、日本で最も注目されているデザイナーの1人です。今回の講義では、中里氏自身の活動を振り返りながら、創作を続けるための思考法、インスピレーションの育て方、そしてファッションが持つ社会的な力について、豊富な実例とともにお話いただきました。
「デザイナーを続けられている理由は、どこかで“楽しい”から」と中里氏は語ります。「困難があっても、楽しさが上回っていれば人は前に進み続けられる。だからこそ、自分がファッションのどこに楽しさを感じているのかを言葉にしてみてほしい」と学生たちに投げかけました。服を「作る」のが好きな人、見るのが好きな人、考えるのが好きな人。同じ「ファッションが好き」でも、その入口は人それぞれであり、それが自分自身の個性を知る第一歩になると学生たちに伝えました。
「インスピレーションは待つものではなく、育てるもの」。中里氏は、旅や日常の中で生まれる心の抑揚(喜び・恐怖・違和感)を意識的に捉えることの重要性を語りました。
こうしたプロセスを通じて、自分だけの視点が明確になり、デザインへとつながっていくと学生たちへのアドバイスをいただきました。
さらに、砂漠での遭難体験、拾った石を砕いて染料にしたドレス、陶器で作られた衣装など、体験と表現が強く結びついた作品例も紹介されました。素材や手法の選択は、単なる技術ではなく、自分の体験や感情とどう結びつけるかという意思決定であり、そこにデザインの独自性が生まれると語りました。
「アイデアが浮かばないのではなく、『信じきれずに手放してしまっている』状態こそが、スランプの正体ではないか」と中里氏は言います。人工タンパク質を使用した素材や古着の再生プロジェクトを例に、直感と忍耐、そしてトライ&エラーを続けることの大切さを語りました。失敗を重ねながらも直感を信じ続けることで、やがて唯一無二の表現にたどり着くと伝えました。
世界情勢や社会の変化は、人々の心を通じてファッションにも表れます。中里氏は、割れる陶器で作られた「繊細な鎧」の作品を例に、ファッションが言葉を使わずにメッセージを伝える手段であると説明しました。直接的な言葉では衝突を生みやすいテーマも、ファッションという表現を通すことで、見る人に「考える余地」を与える。この「アーティスティック・ジャーナリズム」という視点は、これからのクリエイターにとって重要な考え方だと語られました。
講義の終盤では、ケニアで訪れたある施設でのエピソードが紹介されました。
中里氏の作品を身にまとった少女が自然に室内を歩き、それを見ている人から自然と拍手が起こった瞬間は、服が人の心と自己肯定感に直接働きかける力を象徴する出来事だったといいます。「服を着る楽しさ」や「美しいと感じる気持ち」は時代や国境を超えて、人と人をつなぐ力となり、どんな未来でも失われないと伝えました。
最後に、中里氏から学生へ向けた、力強いエールとして、以下3点のアドバイスをいただきました。
1985年生まれ。2008年、ベルギー・アントワープ王立芸術アカデミーファッション科を卒業。2016年7月にはパリ・オートクチュール・ファッションウィーク公式ゲストデザイナーの1人に選ばれ、現在に至るまで日本人として唯一、パリ・オートクチュール・ファッションウィークにてコレクションを発表し続けている。近年では、単独回顧展BEYOND COUTUREがフランスの公立美術館カレー・レース・ファッション美術館にて開催された。アメリカのボストン・バレエ団やスイス・ジュネーブ国立劇場等で行われるオペラやバレエ等、舞台芸術の衣装デザインを行う。また、自らが発起人となり、未来を担う次世代のクリエイターのためのファッション・アワード FASHION FRONTIER PROGRAM を創設。